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東京地方裁判所 昭和62年(ワ)7426号 判決

反訴原告

塚本博

ほか一名

反訴被告

株式会社トヨタレンタリース東京

主文

一  反訴原告らの請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は反訴原告らの負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  反訴被告(以下「被告」という。)は、反訴原告塚本博(以下「原告博」という。)に対し、金三一六万八九九六円及びこれに対する昭和六二年六月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を支払え。

2  被告は、反訴原告塚本葉子(以下「原告葉子」という。)に対し、金一三〇万四三二〇円及びこれに対する昭和六二年六月九日から支払ずみまで年五分の割合による金員を各支払え。

3  訴訟費用は被告の負担とする。

4  仮執行宣言

二  請求の趣旨に対する答弁

主文同旨。

第二当事者の主張

一  請求原因

1  本件事故の発生

(一) 日時 昭和六一年一〇月一二日午後六時五分ころ

(二) 場所 東京都大田区羽田一丁目四番先首都高速一号線道路上

(三) 被告車 普通乗用自動車(以下「被告車」という。)

右運転者 黒柳実(以下「黒柳」という。)

(四) 原告車 普通乗用自動車(以下「原告車」という。)

右運転者 原告博

右同乗車 原告葉子

(五) 態様 被告車が原告車に追突した。

(六) 結果 原告らは、本件事故により、頚椎捻挫の傷害を受けた。

2  責任原因

被告は、被告車を所有し、自己のため運行の用に供してしたものである。

3(一)  原告博の損害

原告博の前記受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 入院雑費 金二万〇四〇〇円(入院一七日間)

(2) 入通院慰藉料 金一〇〇万円

(3) 休業損害 金七八万円

昭和六二年三月一日から同年五月三一日まで、一か月金二六万円。

(4) 通院交通費 金四万二五六〇円

昭和六一年一〇月二六日から昭和六二年五月一八日まで、自宅から東京都江戸川区松島一丁目四二番三一号所在の同愛会病院に通院した交通費。

(5) 後遺障害慰藉料 金九〇万円

原告博には、頚椎捻挫及び下半身麻痺の後遺障害が残つた。右後遺障害については金九〇万円をもつて慰藉されるべきである。

(6) 後遺障害による逸失利益 金四二万六〇三六円

ⅰ 基礎収入 一か月金二六万円

ⅱ 労働能力喪失率 五パーセント

ⅲ 労働能力喪失期間 三年

(二)  原告葉子の損害

原告葉子の前記受傷に伴う損害の数額は次のとおりである。

(1) 通院慰藉料 金八〇万円

(2) 休業損害 金四七万〇四〇〇円

昭和六二年二月一八日から同年五月三一日まで、一か月金一四万円。

(3) 通院交通費 金三万三九二〇円

昭和六一年一〇月二六日から昭和六二年三月一六日まで、自宅から同愛会病院に通院した交通費。

よつて、原告らは、被告に対し、自動車損害賠償保障法三条に基づき、原告博につき金三一六万八九九六円、原告葉子につき金一三〇万四三二〇円、及び右各金員に対する反訴状送達の日の翌日である昭和六二年六月九日から各支払ずみまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の各支払を求める。

二  請求原因に対する認否

1  請求原因1の事実について、(一)ないし(四)は認め、(五)、(六)は否認する。

2  同2の事実は認める。

3  同3の事実は否認する。

なお、被告が自動車保険契約を締結していた千代田火災海上保険株式会社は、本件事故による損害の賠償として、原告博に対し、治療費金三六万三四七〇円及び休業損害金一四四万二一六〇円を支払い、原告葉子に対し、治療費金一一万六二〇〇円及び休業損害金七五万一三七七円を支払つた。

右事実に対する原告らの認否 認める。

第三証拠

本件訴訟記録中の書証目録及び証人等目録の記載を引用する。

理由

一  請求原因1(一)ないし(四)の事実は当事者間に争いがない。

二  そこで同(五)、(六)の事実について判断する。

1  右争いのない事実に成立に争いのない甲第一号証、昭和六一年一〇月一二日に東京トヨペツト株式会社江戸川サービス工場が撮影した原告車の写真であることに争いのない甲第三号証、成立に争いのない乙第一ないし第四号証並びに証人黒柳の証言及び原告ら各本人尋問の結果(但し、後記措信しない部分を除く。)を総合すると次の事実を認めることができる。

(一)  昭和六一年一〇月一二日午後六時五分ころ、黒柳は、被告車を運転して本件事故現場路上を原告車に追従して二〇ないし三〇キロメートル毎時の速度で進行していたところ、停止した原告車を直前に発見し、急制動したが、被告車は原告車に追突した(以下「本件事故」という。)。その際、黒柳は追突による衝撃を認識していない。

(二)  原告らは、いずれも本件事故により傷害を受けたとして、本件事故の翌日である昭和六一年一〇月一三日同愛会病院で診察を受けた。原告博は、頚椎捻挫の傷病名で同日から昭和六二年五月一一日まで同病院に入院及び通院し、原告葉子は頚椎捻挫、腰椎捻挫の傷病名で昭和六一年一〇月一三日から昭和六二年三月一六日まで通院して、それぞれ治療を受けた。

(三)  本件事故の結果、被告車は損傷がなく、原告車には、事故後黒柳が確認したところでは特に損傷は認められず、本件事故後に原告車を撮影した写真(甲第三号証)によつては何等の損傷も認めえない。(なお、原告博は原告車にわずかな擦過痕が付いた旨供述し、原告車の修理見積書にはリアバンパーカバーを交換する旨の記載があるが、右証拠によつては本件事故による原告車の損傷の有無を十分に確定しえないところであり、同原告が供述するように本件事故の結果原告車に損傷が生じたとしても、それはリアバンパーカバーに擦過痕が付いた程度の極めて軽微なものに止どまる。)

原告ら各本人尋問の結果中、右認定に反する部分は措信しない。

2  ところで、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第七号証によれば、仮りに本件事故の結果原告車に損傷が生じたとしてもそれはリアバンパーカバーに止どまるものであり、これを前提に本件事故によつて原告車に生じた衝撃加速度を工学的に求めると、約〇・三五G(重力加速度)となるが、右値は自動車が通常走行している際でも急発進時などに発生する加速度の範囲内の値であり、また、右加速度により原告らの頚部に生じたと推定される回転力は、ヘツドレストレイントの頚部後屈抑制効果を無視したとしても約一・五フイート・ポンドに過ぎず、右値は一般に人間が耐えられることができるとされている後屈の無傷限界値三五フイート・ポンドの約二三分の一と極めて小さなものである。そして、本件全証拠を検討しても、原告らに本件事故に起因することが明らかな他覚的症状があったことを認めるに足りる証拠はない。そうすると、同愛会病院の前記診断結果は、いずれも専ら原告らの愁訴に基づく診断であると推認でき、これをたやすく信用することはできない。そして、他に本件事故により原告らが主張の傷害を受けたことを認めるに足りる証拠はない。したがつて、原告らが本件事故により受傷したことを前提とする本訴請求はすべて理由がないものといわざるをえない。

三  結論

よつて、その余の点について判断するまでもなく、原告らの本訴請求はいずれも理由がないからこれを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九三条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 岡本岳)

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